建築学プロジェクト
2025年度 建築学プロジェクトーWalkable City Design: プレイス・ネットワーク・ストリートが織りなす都市の未来ー

○建築学プロジェクトとは
「建築学プロジェクト」とは、日本大学大学院理工学研究科建築学専攻におけるプロジェクト型の演習授業です。実務経験のある複数の担当教員がユニットを設け、学生はそれぞれのユニットで設定するプロジェクト課題に応じて参加するユニットを選択します。その後、担当教員とのエスキスを重ねながら、提案を段階的に構築していきます。
実践的なプロジェクトや調査・研究への参加を通じて、学生自らが課題を設定し、その目的や調査・設計・実験方法などを企画・実行することで成果を考察します。こうしたPBL(Project Based Learning)の実践により、これまで修得してきた建築学の理論や技術等を社会に実装していくための基礎的な能力の修得を目指します。
本稿では、泉山ユニット(担当教員:泉山塁威准教授)を選択した学生による演習課題の成果を紹介します。当ユニットでは、ウォーカブルシティを軸に、ハード・ソフト・オルグウェアを統合した多角的な視点から、実現性の高い都市デザインを提案しました。
○課題の詳細
東京都心部を含めた世界中の都市では、都市の価値が「移動効率」を優先する車中心社会から「滞在の快適性」や「歩行意欲」を重視したウォーカブルシティへと転換するパラダイムシフトの渦中にあります。
泉山ユニットでは、最先端の都市デザイン理論に基づくリサーチから、「Walkable City Design: プレイス・ネットワーク・ストリートが織りなす都市の未来」をテーマに、ハード(空間)、ソフト(活用)、オルグウェア(仕組み)を統合したウォーカブル都市デザイン計画書(ウォーカブルビジョン)を構想します。
具体的な提案では、従来の都市構造を脱却し、ウォーカブルシティの実現に向けた「プレイス・ネットワーク・ストリート」の3要素を戦略的に編み直します。これにより、地域の魅力、経済、市民の幸福度(ウェルビーイング)が共鳴する新たな都市像(ビジョン)を描きます。
○秋葉原地域の概要
秋葉原地域は、秋葉原タウンマネジメント株式会社が都市再生推進法人として、全国初となる「秋葉原ウォーカブルビジョン」を策定しました。今後は、本ビジョンを具現化するための「ウォーカブルエリアプラットフォーム」を構築し、地域関係者・民間事業者・行政を巻き込んだ推進体制の確立を検討しています。
一方で、当地区は世界的な観光地へと変貌を遂げたことで、極めて複雑かつ多層的な課題に直面しています。急増するインバウンドへの対応をはじめ、コンセプトカフェ等による違法な客引き問題、さらには秋葉原の独自性を支えてきた産業や老舗店舗の撤退など、都市のアイデンティティを揺るがす事態が顕在化しています。また、歩行者天国における夏季の猛暑対策、滞留を促す「座り場」やパブリックスペースの不足など、歩行者空間の質的向上も喫緊の課題です。
以上を踏まえ、ウォーカブルビジョンの具体的実装を見据えた秋葉原地域の都市デザインとして、以下の5つの柱を軸としたビジョンを学生自ら構想します。
- 駅前広場の「タイムズスクエア化」構想とアジア的雑踏文化の両立
- 中央通り歩行者天国の気候変動適応型リデザイン
- 歩行者目線での体験価値向上と秋葉原らしい「雑多性」の現代的解釈
- 座り場・休憩空間・パブリックスペースの創出と活用戦略
- サブカルチャー産業と地域経済の持続可能な共創モデル

○秋葉原地域の具体的な提案内容
【Akihabara Culture Loop〜秋葉原らしさが波及するまち〜】
提案者:髙田悠真、細矢瑞稀、本田薫子、山本夏海、吉岡知輝、吉田明斗
秋葉原地域の提案では、秋葉原に根付く固有の文化や歴史、それらを支えてきた多様な店舗群の個性を活かしながら秋葉原らしさを発信することで、まち全体を楽しみながら回遊(ループ)できる空間として再編していくことを目指します。
具体的には、秋葉原の玄関口として高いポテンシャルを持つ「秋葉原駅西口駅前広場」において、ロータリー空間を再編し、滞留・交流・情報発信機能を備えた文化発信拠点を形成します。また、秋葉原のメインストリートである「中央通り」では、パークレット整備、暑熱対策を行うことで、通過型の道路空間から滞留・回遊型の歩行者空間への転換を図ります。さらに、狭幅員道路では、秋葉原らしい店舗のにじみ出しを活かしながら、時間帯別車両規制やセットバック空間の活用、カラフルサンシェードの設置によって、安全かつ快適な歩行環境を創出します。
本提案では、駅前広場・中央通り・狭幅員道路などのそれぞれの特性を活かした提案を重ねることで、秋葉原全体の回遊性や地域価値の向上を目指します。以下は、秋葉原地域の提案の一部を抜粋したものになります。



○お茶の水地域の概要
お茶の水地域は、2005年の「神田駿河台地域まちづくり基本構想」策定から20年が経過し、改定の好機を迎えています。近年、駅前再開発や「茗渓通り」における歩行者天国の延長・マネジメント手法の検討など、複数のプロジェクトが同時進行しています。
一方で、グローバル化に伴う都市の均質化により、お茶の水が持つ独自性が見えづらい状況にあります。そのため、かつてパリの「カルチェ・ラタン」を模範とした学生街の概念を再定義し、お茶の水地域の個性を確立することが求められています。
以上を踏まえ、2005年の基本構想のアップデートを見据えたお茶の水地域の都市デザインとして、以下の4つの柱を軸としたビジョンを学生自ら構想します。
- グローバル化時代の新しい「学生街」アイデンティティの再定義
- 駿河台・湯島・本郷の地形的・文化的特性を活かした空間統合戦略
- 茗渓通りを軸とした面的ウォーカブル・ネットワークの構築
- 大学・研究機関・文化施設が連携する知識創造エコシステムの形成

○お茶の水地域の具体的な提案内容
【OCHANOMIZU CANVAS LIFE】
提案者:阿部真実、児玉陽斗、原田夏実、山之内陽起、吉田薫澄
お茶の水地域の提案では、学生街の歴史やお茶の水地域における魅力や課題をSWOT分析により整理し、今後のお茶の水地域に必要な要素を抽出しました。これらを踏まえ、学生街を再定義するとともに、お茶の水地域が目指すビジョンを提示します。
コンセプトとして、「Ochanomizu Canvas〜まち全体が「学び」で描かれる、世界一の学生街〜」を掲げます。「学生」を年齢や所属で区切るのではなく、「知を探求し、成長を志す全ての人」と再定義し、誰もが学び、挑戦し、表現できる「Canvas×キャンパス」と捉えることで、学び続ける人々の情熱に日々塗り替えていくお茶の水地域を目指します。
具体的には、再開発の動きが活性化しており「学生街」としてのお茶の水の魅力を体験できる「明大通り」や「お茶の水仲通り」に仕掛けをつくることで、南北軸を強化します。また、ソフト・ハードを統合的に捉えるオルグウェアとして機能し、エリア全体を統括する「お茶の水エリアマネジメント(ラージ・エリアマネジメント)」の設立。あわせて①茗渓通り、②明大通り、③お茶の水仲通りの実働部隊として機能し、通りの個性を引き出す「スモール・エリアマネジメント」を組織することで真の「学生街」を創造します。以下は、お茶の水の提案の一部を抜粋したものになります。



○中間発表・最終発表会
2025年11月22日(土)に日本大学理工学部タワー・スコラ7階にて、泉山ユニットの中間発表を行いました。ゲストには、森ビル株式会社の中原康平氏をお招きし、魅力や課題などの現況分析から提案の方向性までを発表、議論しました。
中間発表の講評では、泉山先生からの指導に加え、中原氏よりまちづくりの現場で働く目線からの貴重な意見をいただき、空間の読み解き方や考え方について深く学ぶ有意義な時間となりました。
2026年1月16日(土)には、同会場にて、泉山ユニットの最終発表会を行いました。都市計画研究室(泉山ゼミ)では、2024年度に引き続き秋葉原・お茶の水の2班がプレゼンテーションと講評会に臨みました。
最終発表会では、秋葉原・お茶の水の歴史を知る建築学科の先生方7名に講評いただき、自分たちの提案に足りない点に気づくきっかけや、貴重な意見交換の場となりました。また、課題解決に向けた空間活用の提案だけでなく、提案を総括した際のまち全体の変化を思考することが重要であると学びました。
建築学プロジェクトを通じて、学生自らが主体的に将来像を描くことで、ウォーカブルシティを軸とした実現性の高い都市デザインの提案を深めていく場となりました。


今回で2年目となる泉山ユニットでの建築学プロジェクトは、各エリアの実情と向き合いながら将来像を構想する実践的な学びの場となりました。PBL(Project Based Learning)の実践により得られた、理論や技術の実装に関する多様な知見を踏まえ、今後の研究室活動や社会に出てからの実務に活かしていきたいと思います。
※本提案は、大学院演習科目・建築学プロジェクトのものです。授業の課題として取り組んでいますので、取り扱いにご注意ください。
秋葉原Webサイトはこちら :https://akiba-actionplan.jimdosite.com/
お茶の水Webサイトはこちら:https://izumiyamalab.my.canva.site/web/


